ユーモア生起過程における同調効果の検証

本論文は、「ユーモア刺激の構造上の差異が、ユーモアの生起過程における同調行動に影響を与えるか明らかにすること」を目的にしている。

丸野らが提案する動的理解精緻化理論によると、感覚的不調和のみで作られたユーモア刺激(不調和型ユーモア刺激)と、論理的不調和を含んだユーモア刺激(不調和解決型ユーモア刺激)の間では、再帰的精緻化の量に差が生じる。そして、再帰的精緻化において、他者の笑顔といった動的な手がかりが、大きな影響を与えるという理論が提唱されている。

一方、社会心理学分野の同調行動研究においては、性的、攻撃的といったユーモアの内容に関する同調行動に関する研究は行われているが、ユーモア構造に着目した研究は存在しなかった。しかし、ユーモアの生起過程において、他者の笑いによって精緻化が促進されており、もしそこに他者への笑いの同調が起きているとすれば、不調和型ユーモアと不調和解決型ユーモアという構造上の差異が同調行動に影響を与え、結果として精緻化の量とユーモア生起量にも差を生じさせると考えられる。

不調和型ユーモア刺激においては、再帰的精緻化の量に個人差があるため、他者とユーモアの生起するポイントが一致しない。従って、「他者が笑っていない」という状況が動的手がかりとして機能する。同調行動の結果、ユーモアの生起は抑制されると考えられる。一方、不調和解決型ユーモア刺激は、前後の文脈が存在するため、多くの人が同じ方向に再帰的精緻化を行う。そのため、他者と同様の再帰的精緻化が起こり、同じ箇所でユーモアの生起が起こると考えられる。したがって同調行動によってユーモアの生起は促進されると考えられる。そこで、3つの仮説を設定し、検証を行った。

仮説1.不調和解決型ユーモア刺激は、不調和型ユーモア刺激に比べて、ユーモアの生起量が多く、笑い声や笑顔といった表出行動も起こりやすい。
仮説2.不調和型ユーモア刺激に対するユーモア生起過程には同調行動が起こり、ユーモアの生起が抑制される。
仮説3.不調和解決型ユーモア刺激に対するユーモア生起過程には同調行動が起こり、ユーモアの生起が促進される。

こうした仮説を検証するため、大学生41名(男21名 女20名)を単独視聴群と複数視聴群に分け、構造の異なるユーモアを評価させた。ユーモア刺激は先行研究に則した定義を利用し、不調和型ユーモア刺激としてシュール型コント、不調和解決型ユーモア刺激として伏線回収型コントを使用した。作業仮説を8つ設定し分析を行ったところ、仮説1.は完全に支持され、仮説2.と仮説3.に関しては部分的に支持される結果が得られた。

よって、本研究では、再帰的精緻化理論の有効性が確認されたと共に、他者が同調行動の手がかりとして機能するということを明らかにできた。一方、構造上の差異がユーモア生起の同調効果にもたらす影響には限界があると示唆された。