記者クラブ制度改革でジャーナリズムは変わるのか ~2009年政権交代後の記者会見オープン化から考える~

日本のマスコミには記者クラブという取材組織があり、所属する記者にとって取材の効率化・迅速化を促すメリットがある。その一方で、非所属の記者は会見に参加できないため情報の独占化が起こる、取材対象から不透明な便宜供与や接待を受け癒着が生まれる、報道協定があり取材の自由が制限されるといった問題があり、ジャーナリズムが本来果たすべき権力の監視・批判機能を自ら弱体化させているとして国内外の報道関係者から批判を浴びてきた。

しかし2009年夏の衆議院議員総選挙では民主党が圧勝し政権交代が実現すると、それに伴いいくつかの省庁で記者会見がオープン化され、記者クラブに属さないメディアの記者でも会見に参加できるようになった。これは1世紀以上に亘る記者クラブ制度の歴史の中で、かつてない出来事である。本論文の目的は実際に行われている記者会見のオープン化の影響を検証し、この改革が記者クラブ制度の問題点を是正しジャーナリズムを健全なものにできるかどうか、その可能性について考察することである。

第1章では一般的な認知度の低い日本の記者クラブ制度の概要・機能を説明し、この制度の持つジャーナリズム上の問題点を挙げている。また諸外国の記者組織との比較を通して日本の記者クラブ制度の特殊性についても触れることにした。

続く第2章では日本の記者クラブ制度の歴史を成立当初から辿り、なぜ上述したような問題が生じたのか、そして多くの批判がある中でなぜこれらの問題は解決されないのかについて考えた。さらに2009年の政権交代後の動向にも触れ、改革の兆しを見せている記者クラブの現状を追った。

そして第3章にて外務省と金融庁の記者会見を題材に、オープン化の影響について検証を行い、その結果を踏まえて第4章で記者クラブ制度とジャーナリズムの今後の展望について考察を加えた。

大臣会見記録と会見の模様を伝える動画共有サイトの再生回数を調べた結果、オープン化に伴ってそれまで排除されていた非記者クラブメディアが多数会見に参加し質疑を行っていること、彼らの報道によって国民の関心が高まっていること、インターネットメディアを通じて国民の声が会見での質疑応答に反映されていることなどが明らかとなった。

こうした影響が生じたことで、記者のジャーナリストとしての質が問われ、記者と取材対象の間に良い緊張関係をもたらす素地が整った。記者クラブ制度の問題をすべて解決するにはまだまだ時間を要するだろうが、記者会見オープン化の流れは確実に現場記者や国民の意識を変え、ジャーナリズムを健全化するにあたって大きな原動力となることは間違いないだろう。

(齋藤俊介)