都市伝説’98-「ドラえもんの最終回(仮)」その伝播過程を検証する-

私達は「ドラえもんの最終回」を川上(1997)の「うわさの3分類」に従い、その特徴を分析し、このうわさを都市伝説であると捉えた。これは「ドラえもんの最終回」が話すこと自体を目的としていること、良く出来た話として広まっていること、起承転結で構造的に出来ていること等の特性を持つことから判断した。

うわさの先行研究では都市伝説を対象外にして進められてきており、都市伝説の研究例は数少ない。私たちの研究意義の1つはこういった「うわさ研究の盲点」を埋めることにあった。また、「ドラえもんの最終回」は電子ネットワーク上で広まり、従来の都市伝説とは違う様相を呈している。この新しい形を持った都市伝説の伝播過程を研究することに第2の研究意義があった。

調査は電子ネットワークを利用して行い、誰がどのように知り、どのように伝えたのかという伝播過程を聞く質問項目を中心にした調査票を作成した。対象は立命館大学産業社会学部の学生で、大学のユーザーIDから学生を抽出し、電子メールを使って3034人に依頼した。回答手段を電子メールとホームページの2種類から1つ選んでもらい、最終的に回答を得たのは450人(回収率14.8%)であった。

本研究で明らかになった主要な点を以下に述べる。

「ドラえもんの最終回」のうわさに関する認知と伝達の割合は、「うわさに接触し伝達した人 (liaison)」が全体の22%、「うわさに接触し伝達しなかった人(dead-end)」が24%、「うわさに接触しなかった人 (isolate)」が54%であった。Sutton,H & Porter,L.W.(1968)の研究ではliaisonの割合が極めて少なく、dead-endが圧倒的に多かったが、今回の結果となった背景には、「ドラえもんの最終回」がそれ自体の重要性よりも、話す楽しみを得るために伝達されるということがあったためと考えられる。都市伝説の特性が顕著に示された結果と言えよう。

次いで、うわさの形態が電子ネットワークであることから、今回の調査では電子メディアの存在の大きさが目立つ結果となった。電子メディアに接する機会が多いほど、うわさ自体に触れ、それを伝える割合も高かった。電子メディアを自宅において積極的に活用する人でうわさを伝えた人の割合が41%であるのに対し、消極的な人でうわさを伝えた人の割合は19%であったことからも、このうわさの伝播過程において電子メディアが持った役割の大きさを表している。しかし、このようなメディア環境の影響の大きさに比べると、性格特性との関連はそれほど強いものではなかった。つまり、電子ネットワーク上のうわさは「性格特性により積極的に取り入れられるもの」ではなく、「メディア環境により自然と入ってくるもの」であるということが分かった。一方で口コミの力も根強く残っており、電子メディアで知った人も口コミを利用してうわさを伝えていた。友人などからうわさを直接聞いて口伝えした人は89%であったが、電子メールで知って口伝えした人も52%いることが分かった。電子メディアの世界は閉鎖的なものではなく、現実と密接な関係を持っていると言える。

3つ目として、先行研究(川上,1997)で「うわさの流れは基本的に、それに対する興味や関心とともに、既存の人間関係を中心に流れる」とあるように、本研究でもうわさを知っている人の70.5%は「友人・知人」もしくは「家族」を介して知っていたことが確認された。また、普段付き合っている友人が「学内のクラス・ゼミ以外」である場合、うわさの入手相手が「学内のクラス・ゼミ以外」となる割合が最も高いのに対して、「学内のクラス・ゼミ」の場合、うわさの入手相手が「学内のクラス・ゼミ」となる割合がさほど高くない。このように普段付き合っている友達と、うわさの入手相手との間に有意な関連が見られたことから、「学内のクラス・ゼミ」といった受動的に形成された集団よりも、興味や関心により自発的、能動的に形成された集団の方がうわさは伝わりやすいということが言える。

さらに、うわさを伝達しなかった理由では、「話を知っても何も感じなかったから」が52.3%と最も高かった。このことは、「ドラえもんの最終回」が三隅(1991)の指摘する都市伝説としての「評価公共性(共同評価を目的とし、主に話として面白く、良く出来た話という評価を要する)」を持つことを裏付ける結果となった。チェーンメールに関して、ネチケットはパソコンやインターネットを活用することでその意識を高められるということが明らかになった。ATSON以外のメーラーを使用している人で、うわさを伝達しなかった理由として「チェーンメールに関する注意を知っていたから」を選択した人が29%いる一方で、ATSON以外のメーラーを使用していない人でそれを選択した人はわずか7%に過ぎなかった。今後の課題としては、都市伝説の伝達を抑制させる要因として「もう知っているだろう」という「合意性推測の過大視」を含めて検討する必要性がある。

今回の調査から、従来のうわさの伝播形態に新しい電子メディアが加わり、それが伝播過程において大きな役割を果たしていることが再確認されたと言える。現代社会において、電子メディアを使ったネットワークは、TVやラジオ、新聞などに並ぶ大きな情報源として一躍を担っているが、既成のメディアに見られる一方的な情報伝達ではなく、相互作用の強い、より簡易的なメディアであると言える。そういった状況下で、都市伝説が従来の口伝えのみを伝播手段として流伝することは有り得ない。私達の研究が都市伝説研究の一助となり、うわさ研究の起爆剤となれば、この研究の価値も深まると自負する。

(伊豆蔵善史・大出真也・岡田牧子・川畑華奈子・喜田早苗・阪田裕明・鷲見義貴)