インターネット世代のテレビオーディエンス像: Twitterからみるテレビ視聴のあり方

 本論の目的は、現代日本におけるテレビ視聴のあり方を、インターネット上の書き込みを分析し、検討することである。今回は、新しいコミュニケーション・サービスの一つであり、現在若者を中心に浸透しているTwitterを利用する。Twitterの書き込みを分析することにより、インターネット利用が一般化している世代のオーディエンス像にも迫る。

 現在のオーディエンス研究では、「個性化」「多様化」というオーディエンス像が検討されている。この言葉が使われるようになったのは1970年代で、当初は「好きな番組を見る」(個性化)「世代によって期待する番組内容が異なる」(多様化)という意味だったが、現代ではさらに複雑性を増している。とりわけインターネットが普及した1990年代以降は、テレビ番組に意見のEメールを送れるようになったり、掲示板で他人の意見を読んだり議論したりなど、人々はメディアの単なる「受け手」という枠を超える存在となった。さらに、インターネットが登場、浸透した時代に産まれ育った現在の10代、20代にはインターネット利用が日常化しており、ますます複雑なメディアへの関与の仕方がうかがえる。例えば、インターネットとテレビの並行利用が挙げられる。大学生を対象とした質問紙調査や日記式記録票などの研究で、自宅でのインターネット利用者の半数以上がテレビ視聴と同時行動を取ること、その同時行動には視聴番組とは全く関係のない「独立した利用」と番組に関連した「相互的な利用」があることが明らかにされている。本論が焦点を当てるのは、この「相互的な利用」についてである。

 本研究では、現在10代、20代のインターネット世代を中心に浸透しているTwitterへの書き込み(ツイート)を分析した。対象とした番組は2011年11月30日に放送された日本テレビ系列ドラマ「家政婦のミタ」第8話である。番組放送5分前から放送終了5分後における「ミタ」というワードを含んだ6989ツイートを収集した。

 先行研究では電子掲示板「2ちゃんねる」における書き込みの分析が行われており、そこでは人々は番組の仕掛けや約束事を見破り「ツッコミ」や「裏読み」をしながら番組の批判をするとともに、そのような他人の視聴反応を掲示板を通して知り、共有することで「視聴の共同性」を楽しんでいることが指摘された。それと比較して、本研究の結果はどうであったのか、それは以下のようにまとめられる。まず、「共感」の特徴である。Twitter上では、番組の批判より番組の演出通りに受け取って反応する「共感」の書き込みが多数みられた。次に、「視聴の呼びかけ」が指摘できる。Twitter上には、番組放送開始前から「これから一緒にこの番組を視聴しようよ」「面白いからこの番組見るべきだよ」という主旨の書き込みが多くみられた。もともと2ちゃんねるには番組を語ろうとする目的で人々が集まるため、このような書き込みはみられない。一方で、Twitterは自分の好きなことを書き込むツールであるため、「視聴の呼びかけ」の書き込みがみられたのだろう。また、これが意味することは、番組の視聴者が積極的にTwitter上で自分の興味に他の利用者を巻き込もうとしているということで、つまり、「視聴の共同性」を自らの手で構築しようとしているともいえるのである。

 以上のことから、インターネット世代のオーディエンス像として以下のことが検討できる。まず、先行研究でみられた「ツッコミ」や「裏読み」はインターネット利用と同時になされるテレビ視聴の傾向の一面にしかすぎず、「共感」を示すようなテレビの見方をしている人々も多数いることである。次に、テレビ視聴におけるリアルタイムなコミュニケーションの場の広がりである。現代はテレビの個人視聴化が進行しているといわれているが、その中で「視聴の呼びかけ」が多数みられたということは、一人でテレビをみるといえども、周囲の人と視聴を共有したいと考える視聴者は多いわけである。要するに、これまではお茶の間でみんなでテレビを視聴し、共有してきたが、現代のインターネット世代はウェブという仮想上の空間でコミュニケーションをはかることが一般化しているのかもしれないのだ。最後に、「並行利用の多層化」を指摘する。Twitter上には「勉強をしながらテレビを視聴する」という主旨の書き込みがみられた。それはつまり、テレビを視聴しながら勉強もし、さらにTwitterにも投稿するという三つ以上の同時行動を意味する。これまでの研究では、テレビと食事、テレビとインターネットというように二つの同時行動が指摘されてきたが、インターネット世代にはあれもこれも同時に行おうとする様子がうかがえる。

 今回はTwitterと2ちゃんねる掲示板における書き込み分析の比較が中心であり、ここで検討されたことがインターネット世代のオーディエンス像にそのまま適応できるとは限らない。しかし、これまでの2ちゃんねる掲示板における先行研究で明らかにされたことに対して、別の切り口が存在することを示し新たな視点を取り入れることができたことは本研究の意義といえよう。