テレビドラマに見る言葉づかいの男女差

 本論文は、「男女の言葉づかいの差がなくなってきている」という現実が、テレビドラマのなかの言葉づかいにも反映されているのかを分析し、さらに、「男性語」や「女性語」がどのような意味を持って使用されているかを考察したものである。 動機となったのは、「現実世界では言語の性差が少なくなってきているのに、ドラマなどフィクションの世界ではいっそう明確になっている」という言語学者による指摘と、メディアで描かれるジェンダーの問題点として、従来的な「男らしさ」「女らしさ」が固定化されて表現されている、という批判がなされていることである。

 本論文ではまず、これまでの女性語研究について概観し、実態調査から現実に男女の言葉づかいの差がなくなってきていることを確認する。続いて、本研究に入る。本研究では、分析対象とするドラマに、舞台設定・登場人物の数・視聴率の高さから『HERO』を選ぶ。そして、『HERO』のセリフの文字化資料を作成し、そこから登場人物ごとにセリフを分けた分析用資料を作成する。その分析用資料を使って、一人称代名詞・呼称・文末表現について「男性語」「女性語」「中立語」の使用実態を分析し、現実の実態調査との比較を行う。さらに同じ資料から、キャラクターと言葉づかいの特徴の関わりについて考察し、従来男女を象徴していた言葉が、現代ではどのような意味を担っているかを探る。

 分析結果として、『HERO』というドラマに関しては、現実の言葉づかいの男女差がほぼ反映されていることが確認できた。また、キャラクターと言葉づかいの関わりからは、「女性語」が従来よりも強い意味での「女らしさ」を象徴することや、女性による「男性語」使用が男性と社会的に対等であることを象徴すること、男性による「女性語」使用は性格が女性的であるという印象を与えること、などが考察された。

 今後の課題としては、多くのドラマに関して分析を行い、分析結果の一般性を高めることや、ドラマの時系列的な比較を行うこと、また、得られたデータを使って言葉づかいの様々な局面について分析することなどが挙げられる。さらに、キャラクターと言葉づかいの関わりについては、言葉づかいがどのような印象を与えるか、という観点からより学術的な研究が行っていかねばならないだろう。