メディアによる観光誘致効果:NHK朝の連続テレビ小説に関する検証を中心に

人はなぜ、旅に出るのか。自身の観光キャンペーン活動中に感じたこの疑問から、メディアを通しての観光誘致がどれほど効果的であるのかについて考察しようと考えた。

本論文は、メディアが具体的な観光行動を誘発する可能性を、NHK朝の連続テレビ小説(以下朝ドラ)を題材に明らかにしようとするものである。本論文でいう観光誘致効果の有無の判断は、「NHK朝ドラを見た人が、その作品の舞台となった地へ足を踏み入れようとし、実際に赴いたかどうか」という観点から行うことにする。

まず第1章で、今までに観光誘致効果があったとされる事例を、先行研究を中心に検証する。

次いで第2章において、朝ドラの概要と、分析対象とした作品、その舞台となった市町村を紹介する。

そして第3章では、実際に朝ドラの舞台となった市町村の観光客数の推移を見ていく。

また第4章は、作品ごとに視聴率と観光客の増加率の相関関係を調べることで、観光客数の増加には朝ドラというメディアによる影響があったかどうかの実証を試みる。

最後に第5章で、以上の検証から観光情報メディアとしての朝ドラの(非)有効性を提示し、地域活性化の手段として理想的な「フィルムツーリズム」モデルを提示する。

第2~4章を中心に朝ドラによる観光誘致効果があるのかという分析を行った結果、作品に一貫した結論を出すことは難しかった。しかし全体の傾向として、朝ドラは舞台となった地域へ観光客を呼び込むような影響力を有していると考えられた。その効果としては次の直接的なものと間接的なものが挙げられた。

①直接的な観光誘致効果

「冬のソナタ」の放映はロケ地へと観光客を呼び込むような直接的な観光誘致効果が高かったと考えられる。朝ドラの中にそのような効果を生み出したといえる顕著な事例は見当たらないが、「いちばん星」の主人公の関係資料が集められた天童民芸館(天童市)や、「どんど晴れ」の小岩井農場における一本桜などは、作品によって生み出された観光スポットであると考えられる。このことから、作品の内容も観光入込客数の増減に影響を及ぼしていると言える。

②間接的な観光誘致効果

間接的効果としては、朝ドラによって各市町村の知名度・認知度は確実にアップするということである。朝ドラは放映時間帯が朝ということで幅広い視聴者層が見込め、さらに「ちゅらさん」でアメリカテロ事件での沖縄に対するマイナスイメージを払拭した事例からもわかるように、朝ドラの放映によって市町村の好感度が高まるのではないかと考えられる。このように、放映年前後の観光客数の増加という顕著な効果は得られずとも、朝ドラが広告媒体となって果たす役割は非常に大きいと言える。この間接的効果を考えるならば、市町村が積極的に朝ドラの舞台誘致をNHKに働きかけるのも頷ける。

(小田由香梨)