少女マンガと女性の意識

近年の「マンガ」の社会的インパクトは注目に値する。出版物全体における販売部数の約4割を占めるマンガは、数の多さ、読者層の広さ、親しみやすさ、メディアミックスへの傾斜などから、メディアとして大きな影響力を持つと言える。また、「時代を映す鏡」といわれるように、社会を反映する力もまた大きい。さらには、日本にとっては国際競争力のあるコンテンツとも言える。

このようにメディアとしてマンガを捉えたとき、マンガと社会の関わりにはまだまだ考察の余地があると考えられる。特に、「少女マンガ」は女性の価値観を最も敏感に映し出してきたジャンルといわれ、その変遷を追うことは意義深い。

そこで、本研究では少女マンガを時系列的に分析し、そこに描かれる「恋愛」と「性」の変遷を追うこと、さらにその結果を女性の意識と照らし合わせて考察することにした。少女マンガを内容分析した先行研究としては、その恋愛至上主義を指摘するものがあるが、まだその数は少なく、また恣意的に作品を選んで論じたものばかりである。さらに性描写に焦点を当てた研究はあまり見られず、そこに本研究の意義が見出せると考える。

内容分析は、集英社の『マーガレット』から、1975年・1985年・1995年・2005年の4つの時代区分に従って各年4作品を抽出し、それぞれ単行本3巻分を対象に行った。その結果、少女マンガに描かれる「恋愛」における変遷は特に見られなかったものの、主人公の主体性や一途さ、恋愛の位置づけなど、変化しない側面が強調された。また、「性」に関しては、性描写の総数・深刻度が共に増しており、主人公の性的行為への意識も解放化されているという結果が出た。

以上のことから、少女マンガの主人公は30年間を通して主体性が弱く、一途さを美徳とし、恋愛至上主義であるといった傾向が強いこと、また、性的関心や性行為への内的イメージが85年以降に増しており、主人公の性意識が強まったことが言えるだろう。もはや恋愛至上主義を消化し、セックス至上主義とも言える現状がうかがえる。

マンガは時代を反映するという言説に従えば、女性たちの恋愛観は昔も今も一途なシンデレラ・ストーリーであり、性意識は大幅に解放化されていると考えられる。無論、マンガが現実をそのまま映すとは言えず、本研究における最大の限界はそこにあるものの、少女マンガと女性の意識には密接な関連を考察し、それを検証する姿勢はこれからも必要になってくると考える。

反映力だけでなく、その影響力にも目を向けたとき、ひとつの社会的メディアとして価値を持ち続けるために、少女マンガはどこへ向かうべきか。それを考える段階に私たちは来ている。