ディズニーをとおしてみる異文化マネジメントの限界と文化混成

 本論は、ウォルト・ディズニー・カンパニーズ(以下ディズニー社)の事例をとおして、異文化適応戦略を明らかにしたうえで、現在のキャラクタービジネスの動向に照らし合わせ、そこに新たな説明を加えることを目的とする。異文化適応戦略については、藤井健の異文化マネジメントの考え方を利用する。

 第1章では、キャラクタービジネスを大観し、その構造とビジネスモデル、現状を見る。そこから、キャラクタービジネスに重要なことはメディアミックスと著作権管理であること、キャラクターには短期サイクルで展開されるもの(短期キャラクター)と長期サイクルで展開されるもの(長期キャラクター)に2別できることが分かった。メディアミックスによりキャラクターを消費者の間で定着させ、著作権管理によりイメージや世界観を維持するのである。そのうえで、短期キャラクターを長期キャラクターに成長させるためには、消費者を飽きさせない工夫が必要である。それをすることにより、キャラクターは世代を超えた人気を得、長期キャラクターへと成長できるのである。

 これらの点を踏まえ、第2章ではキャラクターの異文化適応戦略を見ていく。藤井健は、異文化適応戦略により異文化を変容させる企業活動のことを異文化マネジメントと定義している。異文化マネジメントに必要なのは、キャラクターの長期化戦略に加え、現地化という手段である。「キャラクターは製作された国の文化を背負っている」という観点に立つと、文化間の差異は大きな障壁となるため、現地化が必要なのである。またここで言う現地化は、「キャラクタービジネスはキャラクターの統一されたイメージの維持」が前提であり、その範疇で行わなければならない。本論では、「ポケモン」の事例をとおして、異文化マネジメントを具体的に紹介する。「ポケモン」は、ストーリー展開やキャラクターの名称の変更、背景の無国籍化という手段により現地化を行い、世界的大ヒットを記録している。そのうえでディズニー社の異文化マネジメントを見ていく。ディズニー社の異文化マネジメントは、映画・グッズ・テーマパークによるメディアミックスと、徹底した著作権管理、現地化の3点にある。現地化については、メディアミックスの3領域全てに関して行われている。特に映画に関しては、原作に既存の民話や童話を用い、そこにオリジナルキャラクターを加えることで、文化的差異の除去と、異文化浸透の円滑化を図っている。

 第3章では、こうしたディズニーの現状について検証し、従来の異文化マネジメントと比較することにより、藤井健の論文を強化すると同時に、新たな傾向の読み取りを試みる。その結果、メディアミックスにおいては、ローカル単位のシナジー強化と年齢層の拡大を図っているということ、著作権管理においては、徹底した管理体制を貫く一方で、中国に対し著作権放棄を認めたことが香港ディズニーランドの不振の一因として表出していること、現地化に関しては、映画において原作の無国籍化に加え、テーマの無国籍化や人種の多様化による無国籍化が行われているということが分かった。

 こうした現状と藤井健の異文化マネジメントを比較したところ、異文化マネジメントでは説明できない新たな傾向が生じているということが見えてきた。ディズニーキューティーズというシリーズでは、日本文化に適応させるためにキャラクターのオリジナリティーが変容されているのである。この事例は、キャラクターのイメージの統一を前提とする異文化マネジメントに反していると考えられる。第4章では、この点について国際社会学的観点からの説明を試みると同時に、キャラクタービジネス全体の動向と結びつける。その際、キャラクターの変容事例として、「セサミストリート」、「パワーパフガールズ」、「スパイダーマン」の3つを取り上げる。その結果、キャラクターの変容は、イメージが異文化へ渡来する際に生じる文化の混成化と再編成を、企業が戦略的に利用しているということが分かった。第5章では、それをまとめたうえで、考察を加える。