「優しい関係」に生きるケータイ世代

 幼いころからケータイを持ち始め、ケータイと共に青春時代を過ごした「ケータイ世代」を対象に、彼らの実際に誰かと対面しているときの人間関係と、ケータイを通した人間関係の関連を調査する研究を行った。「ケータイ世代」は、リアルな人間関係を「優しい関係」で生きる者が多い。「優しい関係」とは、従来のやさしさとは異なり、自己肯定感を得るために、高感度の対人レーダーをつねに作動させ、場の空気を敏感に読み取って良好な関係を築こうとする人間関係のことである。「優しい関係」に生きる者は、「相手も自分も傷つけない」距離感で接することを重視する。そこで、本研究では、ケータイと共に過ごしてきたケータイ世代は、「優しい関係」に生きる度合いが強いほど、ケータイを通しても対人レーダーを働かせようという思いが強くなるため、ケータイを通して自身の人間関係をマネジメントする度合いが高くなるのではないかと仮説をたてた。

 先行研究を参考に、「ケータイ世代」の「優しい関係に生きる度合い」と、「ケータイによる人間関係マネジメント度」に関する尺度を作成し、まずは因子分析によって各尺度の因子数を求めた。その後、「優しい関係に生きる度合い」を独立変数、「ケータイによる人間関係マネジメント度」を従属変数に設定し、重回帰分析を行って2変数の関連を調べた。因子分析の結果、「優しい関係に生きる度合い」尺度は4因子、「ケータイによる人間関係マネジメント度」尺度は2因子が得られた。「優しい関係に生きる度合い」尺度の4因子は、「人間関係を乱すことへの懸念」、「自身への評価懸念」、「仲間はずれ不安」、「本音非開示」と命名した。「ケータイによる人間関係マネジメント度」尺度の2因子は、「メール偏重」、「ケータイレーダー」と命名した。また、「ケータイによる人間関係マネジメント度」が孤独感からくるものではないことを証明するために、孤独感尺度も統制変数として加えた。

 分析の結果、「優しい関係に生きる度合い」のなかでも、「仲間はずれ不安」と「人間関係を乱すことへの懸念」の要素を持っている者は、特にケータイによる人間関係マネジメント度が高くなることがわかった。また、孤独感は、ケータイによる人間関係マネジメントには、正の影響を与えていないことが明らかになった。むしろ、負の影響を与えているとの結果が出たため、ケータイ世代は、ケータイは孤独感を解消してくれそうでいて、実は増長させるツールであることを見抜いているのかもしれない。

 これにより、ケータイによる人間関係マネジメント度は、孤独感とは関係がなく、「優しい関係」に生きる度合いによる影響を受けていることが明らかになった。