商業化するオリンピック:スポーツ界におけるメディアの影響力

 オリンピックは、今や誰もが認める世界最大規模のスポーツ大会である。オリンピック開催期間の前後には、世界中のたくさんの人々が大会に注目し大いに盛り上がる。オリンピックは開催地だけでなく世界中の経済にも影響を与え、大会による経済効果は巨額であることはよく知られている。このように大きな影響力をもつオリンピックだが、その長い歴史の中で、現在のような巨大な経済効果を生み出すようになったのはここ20年ほどのことである。近年のオリンピックの歴史の中で大会を大きく変えたのは「商業主義」である。全世界で加速する商業主義の波がスポーツ界にも押し寄せ、最大のスポーツ・イベントであるオリンピックをも巻き込んでいった。

 オリンピックの商業主義化の歴史の中で最も重要な出来事として、サマランチIOC会長の登場とロサンゼルス・オリンピックがあげられる。

 東西冷戦の影響がオリンピックにも及び、大会ボイコットにまで発展するという混乱の中、IOCのトップに就任したスペイン出身のサマランチ会長は、次々と大きな改革を実行していった。オリンピックを世界最高レベルのスポーツ・イベントとして、その価値を存分に高め、様々な方面から注目やお金が集まるようにした。アマチュア・スポーツの祭典であったオリンピックは、実質的にプロとして競技に取り組むアスリートたちの熾烈な闘いの場となり報道を賑わせた。もちろん、IOCによるオリンピックの改革は日本スポーツ界にも大きな影響を与えたのであった。

 現代オリンピックの始まりとも言える、1984年のロサンゼルス・オリンピックでは、大会組織委員会が徹底的な商業主義路線の運営を行い、見事黒字化を達成した。大会のスポンサーシップのシステムを確立し企業からの資金を獲得したり、大会のマークやマスコットをライセンスとして商品化したりと、財源確保に努めたが、中でも画期的だったのは、オリンピック放送権のビジネス化であった。メディアの放送技術の発展に伴い、オリンピックの放送権の価値は高くなっていて、放送権料による収入は、大会の運営にとって欠かすことの出来ない最大の資金源のひとつとなったのである。

 しかし、オリンピックの放送権料の高騰は、スポーツ界におけるメディアの影響力を強めることになった。オリンピックはメディア、とりわけテレビ放送を意識して運営されるようになり、各競技はテレビ・ソフトとして位置づけられるようになった。テレビ放送によって、競技が人々に認知され発展するという面もあるが、一方でメディアを意識するあまりに、競技者の安全が軽視されるような弊害も現れた。また、メディアが報道を通じてオリンピックを演出することによって人々の注目度は高まるが、本来のスポーツ競技会としての姿が損なわれてしまうという弊害も見られる。

 オリンピックの商業主義路線によって大会が発展したことは紛れもない事実だが、それは同時に深刻な弊害も多くもたらした。これからのオリンピックのあるべき姿というものを明確に示すのは難しい。ただひとつはっきりと言えることは、オリンピックの運営の現状や、大きな影響力をもつ各種メディアの報道内容を、すべての関係者が注意深く見守り、より良い大会運営のために大いに議論し、努力していくことである。もちろん我々一般のオリンピック愛好者の声も、オリンピックを動かす大きな力となるはずである。