NHKは公共放送として機能しているのか

 NHK問題は多くの論者によって議論されてきた問題である。そして現代においても、NHK改革、NHK批評などの議論は数多く存在している。しかし、そうしたNHKに関わる議論の中で何度も主張されてきた「放送の公共性」という言葉は、あいまいなままで使われてきた。NHKとしても、明確にこの言葉を定義していない。

 「放送の公共性」の意味をめぐる議論によると、「放送の公共性」は、この言葉を使う人によって意味内容が変化し、普遍の定義をすることは不可能であるということが指摘されている。しかし、「放送の公共性」という言葉の定義をあいまいなままにしてNHKに関する議論をすることは、議論そのものをあいまいにしてしまい、実りのない結論で終わってしまうことが多いということも指摘されている。

 そこで、「公共性」という言葉が持つ意味、そして今まで「放送の公共性」が主張された問題を分析することによって、「放送の公共性」を、「放送を、誰もが平等に受信することができ、その内容が不偏不党・公正・公平であること。また、放送の公共性は放送の公益性と言い換えることができ、国民一人ひとりが放送によって利益を配分され、自由で公正な言論空間が保たれること。そのために、放送局は事業運営の説明責任を担うとともに、市民や視聴者の参加の道を開いていること」と定義し、議論を進める。ただしこの定義は普遍の定義ではないということに注意したい。

 「公共放送」は「放送の公共性」を維持していなければならないという視点に立って、NHK問題を、その歴史的背景から見てみる。すると、NHKは歴史的に政府が介入しやすい構造になっており、「放送の公共性」の維持が難しいことに気付く。NHKで起こった事件を見ても、NHKと政府との癒着が原因になっているものがほとんどである。こうした政府との癒着による事件は、特に海老沢会長期に、NHK職員による受信料着服事件などの問題とともに多く明らかとなり、NHKは視聴者の信頼を失いつつある。そして、NHKの財政を支える受信料も、NHK問題の多さから不払いに転じる人が増え、NHKの経営を脅かすまでに発展している。今、NHKは公共放送として機能していない状況に陥っている。

 こうしたNHKにおいて、今必要とされている改革とは何であろうか。必要とされている改革は、政府介入問題を解決する改革であり、受信料不払い問題を解決する改革である。

 政府介入問題を解決するには、過去においてはNHKに政府が介入してきたという事実を、未来においては政府がNHKに介入する可能性が大いにあるという現状を、NHKの職員一人ひとりが認識する必要がある。そして、そうした政府の介入に真っ向から対決するような意志を持ったNHK職員を認め、育てていく組織作りをすることが、NHKと政府との関係において一番必要とされていることである。

 受信料不払い問題を解決するには、NHKと視聴者との間に「相互信頼」の関係を築き、「視聴者参加」の放送体制を作っていくことが必要である。「相互信頼」の関係を築くには、NHKと政府との関係の改革が必要である。「視聴者参加」については、視聴者は受信料を払うことによってNHKに対するアクセス権を得るという認識を持ち、NHKはそうした視聴者の要望に応える番組作りをすることが求められる。

 NHK職員が問題意識を持ち、NHK改革の必要性を考えるだけではなく、視聴者も、放送のターゲットとしての受動的な存在に甘んじることなく、NHKに対し意見を発信していくことが必要である。NHK職員と視聴者とが力を合わせ、NHKを「放送の公共性」を維持した「公共放送」へと作り直す必要がある。