クチコミと消費者行動

 クチコミは家族、親戚、友人といった知り合いだけでなく、インターネットの普及により、簡単に不特定多数に伝播する。クチコミが発生するための条件は、購入前の消費者の知識欲求、購入後の消費者の心理的欲求を満たすため、そして商品自体がクチコミを生み出すような「会話型製品」であるということだ。製品の購買行動においてクチコミは営利を目的としたマス広告と違って、友人知人が金儲けのためではなく、自発的かつ偶発的に話す情報であるということ、そして、経験者という最も説得力のある人の言葉をきくことができるということがクチコミの長所である。一方、クチコミの短所はクチコミが営利目的による行為ではないことや、一度にクチコミをする相手は限られることから、伝達力の弱さだと考えられていたが、インターネットの普及によって変わった。インターネット上のクチコミは信頼性が低いと考えられるが、これから、我々は親戚・家族・友人といった自分と結びつきの強い関係を持った人々よりもインターネット上のコミュニティのメンバーといった弱い紐帯関係の他者に頼ることが考えられる。というのも、インターネット上の方が、より詳しい知識を得ることができるだけにとどまらず、情報の信頼性を得るために、多くのコミュニティを往来することが可能であり、多くの人々の意見を得ることができるからである。また、親戚・家族・友人では発言できないような客観的な意見が弱い紐帯の人々では可能になる。

 このような状況の中で考えなければならない問題がある。一つが沈黙の螺旋理論である。公の場でよく登場する意見は、ますます優勢な意見のように思われ、逆に表出されることの少ない意見は、孤立化の度合いを深める。結果として、初めに優勢であるというレッテルを貼られた意見は、同調者やそれに黙従する人を増やし、結果として実質的にも勢力を増していくだろう。また、RAMとROMの問題がある。インターネット上のコミュニティはごくわずかな限られたメンバーによって構成されているにもかかわらず、閲覧者の約8割は『コミュニティではさまざまな意見や考えの人がいて発言がバラエティに富んでいる』と思っているのである。これではわずかなメンバーによってコミュニティの意見を操作することも不可能ではない。また、クチコミ型広告と呼ばれるアフィリエイトが登場し、クチコミになりすまして利益をあげるサイトも多い。さらには、わるいクチコミはよいクチコミよりも信頼性が高く、伝達速度が速いというのも問題である。企業は消費者の意見を無視できなくなり、それへの対応が急務である。

 これまで企業が発信していた情報(広告)をただ鵜呑みにするのではなく、消費者自ら情報(クチコミ)を発信するように消費者の行動が変化するのならば、消費者自らがとる行動に大きな責任が伴うことに注意をしていく必要があることを肝に銘じなければならない。この責任というのは、企業とのコミュニケーションを図っていくことである。企業の発信する情報に気を配り、その情報を取得し、必要とする消費者コミュニティのメンバー全員が理解することである。そうすれば、インターネット上に氾濫する膨大なクチコミの質も向上し、さらには消費者の商品理解不足によって生じるわるいクチコミも淘汰されるだろう。また企業に対し、消費者自ら自信の意思や不満を伝達していくことも重要である。この消費者と企業の双方向のコミュニケーションを行っていくことが、これからのクチコミ消費社会において肝要である。