ネガティブ情報のポジティブ効果: ハイテク商品のインターネット広告における両面呈示の有効性

 本研究では、ハイテク商品のインターネット広告において、「ネガティブな情報をあえて公開することの有効性」を検討することを目的としている。かつては、企業と消費者における情報の非対称性は明らかであった。しかし現代ではインターネットの発達によって、消費者が情報収集能力を身につけるようになり、購入前に価格比較サイトやSNS、ブログなどから商品情報を収集することが可能になった。この「第三者」の情報は消費者にとって信頼性が高く、ますます重要視されている。もはや企業が商品に関するネガティブな情報を、消費者に隠し続けることはできない。このような時代背景の中で、「第三者によって商品のネガティブ情報を公言され、企業や商品に対する信頼を傷つけるのであれば、企業から積極的にネガティブな情報も公開していくべきなのではないか」というのが、本研究の出発点である。

 本研究では、「ネガティブな情報をあえて公開することの有効性を検証する」という目的に即して、両面呈示という社会心理学理論からの検証を試みている。両面呈示とはネガティブな情報もポジティブな情報と併せて提示する手法である。一方ポジティブな情報のみを提示する手法を一面呈示と呼ぶ。この両面呈示の構成理論として、(1)帰属理論、(2)耐性理論、(3)注意喚起理論の3つの理論があげられる。本研究では(1)帰属理論と(2)耐性理論の検証を行った。また(3)注意喚起理論に関しては、研究対象とネガティブ情報を「ハイテク商品」「技術的・制度的課題」に限定し、あくまで両面呈示の注意喚起理論が本実験下のネガティブ情報の特性・レベルでも成立するか検証するにとどまった。

 本研究の実験では、研究対象の商品カテゴリと情報媒体に「ハイテク商品」「インターネットの商品広告・クチコミサイト」を採用した。商品カテゴリとしてハイテク商品を採用した理由は、2つある。1つめは、ハイテク商品はデメリットな性質が他社製品一致する場合が多いからだ。ハイテク商品の技術的・制度的課題は、一社に限らず競合他社も同じ状況に置かれている。このような場合、デメリットが全メーカー同じであるため、その性能を比較して消費者が他社の商品の購買を決定するとは考えにくい。2つめの理由は、イノベーションが起きたハイテク商品は一般的に高額な耐久消費財であり、消費者が自ら積極的に商品情報収集することが予想されるからだ。自ら積極的に情報探索を行うということは、ある程その商品に興味があり、情報も熟考すると考えられる。両面呈示の手法は消費者の事前態度が説得方向と同じ、またはそのトピックに対してポジティブな場合、そして注意深くメッセージを読み取った場合の方が、その効果が高いと言われている。したがって、そのような消費者の情報探索の手段、思考過程が予想できる高価格な耐久消費材のハイテク商品を選択した。本実験では、このイノベーションが起きたばかりのハイテク商品の代表として、電気自動車を採用している。さらに、現代社会において「情報収集手段」として最も一般的かつ重要と考えられるインターネットを情報媒体として採用した。

 本研究では以下の仮説を設定し、実験を行った。

  • 仮説1:両面呈示のインターネット広告をみた消費者の方が、一面呈示の広告をみた消費者よりも、企業に対する信頼度や商品への好感度が高くなる。(帰属理論の検証)
  • 仮説2:商品広告をみた後に商品のネガティブ情報をみた場合、両面呈示のインターネット広告をみた消費者の方が、一面呈示のインターネット広告をみた消費者よりも企業に対する信頼度や商品への好感度が高くなる。(耐性理論の検証)
  • 仮説3:商品広告をみた後に商品のネガティブ情報をみた場合、両面呈示のインターネット広告をみた消費者の方が、一面呈示のインターネット広告をみた消費者よりも企業に対する信頼度や商品への好感度が低下しにくい。(耐性理論の検証)

結果、仮説1は棄却され、仮説2、3は一部支持された。

 本実験では、両面呈示の帰属理論の有効性は立証されなかった。しかし、耐性理論の有効性は一部支持された。一方で、一面呈示が両面呈示に比べて有効な手法だということも立証されなかった。これは、従来の「広告は商品のよい面のみをアピールすべき」という常識を覆したものと考えられる。

 よって上記したような社会状況を考慮すると、あえて一面呈示を行うメリットが無いのであれば、消費者視点にたった販売方法として、企業は両面呈示を進めていくべきではないのか、というのが本研究の帰結である。企業がネガティブ情報を積極的に公開することで、消費者はより有意義な購買行動をとることが可能となる。企業がネガティブな情報を公開することが、企業と消費者との信頼関係を構築し、企業と消費者がwin-winな関係を構築する一歩となるのではないか。