説得コミュニケーション分析~アムウェイ営業に見られる「影響力の武器」

心理学者ロバート・チャルディーニは、人が説得を受け入れる際の心理プロセスに影響を与える心理学の原理のことを、「影響力の武器」と名づけた。彼は、次のように述べた。「何か決定を下すとき、全体を代表するほんの一部の情報だけを使う。説得のプロはそれを利用し、相手に影響力を与える引き金を忍ばせ、成功率を高めている。」これを証明すべく、本論文では、説得における「影響力の武器」を実践的に分析した。分析対象として、説得コミュニケーションの上に成り立つ口コミビジネス、その中でも不動のトップをひた走るアムウェイの営業を取り上げた。

第1章では、先行の説得研究を紹介した。そもそも、説得とは、人々のコミュニケーションにおいてどのような位置づけにあるのか。また、人はどのような心理プロセスを経て、説得の承諾に至るのか。さらには、受け手の態度変容に有効な働きをする要因にはどのようなものがあるのか。これらを押さえるために、説得コミュニケーションにおける基本的な理論やモデルを確認した。

第2章では、アムウェイの会社概要を確認した後に、アムウェイがいかなる要因で発展してきたかについて明らかにした。外的要因(好景気、消費傾向の変化、健康志向の高まり)と内的要因(商品力、広告・宣伝力、口コミ力)に分類して、その要因を詳しく分析していった。これらの要因の中でも、内的要因の口コミ力こそが、アムウェイの急成長を支えた最も重要な要因であると確認した。

第3章では、口コミ力を支える説得コミュニケーションを実践的に分析していった。受け手の承諾を引き出す要因、つまり説得の規定因は5つ(メディア、与え手、受け手、説得メッセージ、自己説得)に分類できる。これらをアムウェイの説得コミュニケーションの中で見ていった。メディアについては、1対1の対人場面とミーティングでの集団による2つのメディアを複合的に用いることで、説得効果を高めていることが分かった。与え手については、与え手自身の認知的不協和の解消、そして与え手の信頼性と好意性(主に類似性とお世辞)という規定因の重要性がアムウェイでは強調されていることが分かった。受け手については、心理的リアクタンスの軽減と、恐怖感情の喚起が見られた。説得メッセージについては、説得予告と結論の明示、返報性、希少性の3つの事例を確認した。これらは、本質的な内容の応諾を促すために、非本質的メッセージとして説得効果を上げていた。自己説得については、説得の役割演技と自己イメージ法という2つの行動によって引き起こされていることを見出すことができた。以上、アムウェイの説得コミュニケーションに見出された説得の規定因は、ほとんどが理論を実践したものであり、その説得効果も期待できると考えることができた。また、アムウェイの説得コミュニケーションを精微化見込みモデルに当てはめたとき、周辺ルートを通って態度変容に導くことが多い。つまり、アムウェイ営業では、説得の規定因となっている上記の周辺的手がかりが有効的な役割を果たすのである。アムウェイが口コミビジネスで成功した理由はここにあると言える。

(横山まみ)